武蔵小杉の駅前にある「喫茶ブラジル」(川崎市中原区小杉町3、TEL 044-733-6968)が6月29日に、2階の「洋酒コンパブラジル」が30日に閉店する。
「喫茶ブラジル」を経営する金沢秀行さん(65)は、二子玉川生まれ。現在の府中街道と東横線の交わる所に「工業都市駅」があった2歳の頃、小杉町へ引っ越した。1962(昭和37年)に父親が現在の場所にビルを建て、1階はパチンコ店、2階はベッド店で経営を始め、東京オリンピックに沸く1964(昭和39)年には接待飲食店に業種変更した。
金沢さんは高校時代までサッカー部に所属し、全国大会へ行くほどのめり込んでいたが、その後は家業を手伝うようになり、28歳の時に店を受け継ぎ、現在の喫茶店として営業するようになった。東急東横線武蔵小杉駅の駅前という立地で駅前の変遷を見つめながら、店の形も少しずつ変えてきた。前の業態の時には、朝8時から翌5時まで店を開けていたこともあるという。
金沢さんは「30年くらい前に、コーヒー専門店がはやった時代があって。この周りだけでも15~16軒のコーヒー店があった。今でもそうだが、武蔵小杉の人は『新しもの好き』というか、流行に敏感なところがある」と当時を振り返る。同店のコーヒーはサイホンで入れる本格派で、豆にもこだわり、宮内庁ご用達の「珠屋小林珈琲(コーヒー)」から仕入れている。
閉店の理由はビルの老朽化に伴う建て替えと、自身の体力を考えてのことという。「ランチも自分で作るし、結構ハードな生活だった。しばらくは体を休めてやらないと」と話す。「時間ができたら読書や山登りなどやりたいことはたくさんあるが、お店を閉めることで常連さんたちに会えなくなるのは寂しい。新しくできるビルにも、またこういう誰でもくつろげるような店が入ってほしい」とも。
2階の「洋酒コンパブラジル」は1974(昭和49)年から営業。当時流行していた、男女が出会い目的で飲みに集まる「コンパ」という業態が、東京近郊で現存していた稀有(けう)な存在だった。
金沢さんの兄で、同店を営む斗弘(とひろ)さんは「これだけ長く店をやってこられたのは、地域のお客さまあってのこと。今、この街が注目されているのも、裏にはちゃんと地域があって、お互いに支え合っているから。本当にありがたいこと。店が無くなっても、お客さまとスタッフでつくってきた思い出は宝」と笑顔を見せる。
「喫茶ブラジル」の営業時間は8時30分~18時40分、土曜・日曜・祝日定休。「洋酒コンパブラジル」の営業時間は19時~24時(木曜、土曜は13時30分~17時も営業)、日曜定休。