川崎駅東口の日進町エリアの壁画や簡易宿泊所が、市内在住のアーティストらによってペイントデザインされた。
JR川崎駅東口から京急本線の高架線に沿うように南側へ10分ほど歩く同エリア。高度経済成長期に労働者を支えた宿泊所が軒を連ねた地区では今も数軒の宿泊所が営業を継続し当時の面影を残している。
2月から始まった同プロジェクト、日進町エリアの京急本線沿い約40メートルの壁面で4人のアーティストが壁画制作を始めた。主催したのは京浜急行電鉄。
同社に相談を持ち掛けたのは日進町をリノベーションまちづくりのモデルエリアとしている川崎市の職員。担当したまちづくり局拠点整備推進室の林美由紀さんは「地区内に既存建物を生かしてアートの要素を持つ施設が少しずつできてきて、今後ますますこの地区へ訪れる魅力創出のため、まちにあるいろいろな壁を使ったアートという話が持ち上がった」と話す。
4人のアーティストの中で発起人となった川崎市出身、在住のKOJI YAMAGUCHIさんは「一見華やかに見える壁画には日常で見落としてしまいそうな市内の路上に咲く花をモチーフに描き、この地区が新たなチャレンジをすることでよりよい見え方に変わっていけたらという思いを込めた」と制作への思いを話す。作業中には通行する方々から話し掛けられ、時に差し入れを頂くなど「4人のアーティストが地域とコミュニケーションを取りながらそれぞれの思いを込めて壁画制作をした。壁画をきっかけに実際に足を運んでこの地区を知っていいただけたら」とも。
以後、この取り組みは広がりを見せている。作業のあいさつの際に話をしたことがきっかけで「他の宿でもやりたいという人がでてくるかも」と、京急本線向かいの宿泊所「ひさ美」が取組に賛同し外壁の壁画制作を始めた。さらにリノベーション工事中であった近隣宿泊施設の「ニュー大和」も「この機会に」と壁画制作を始めた。
「ひさ美」、「ニュー大和」の壁画制作を担当した川崎市在住のアーティストである奥田和久さんは「時代が移り変わり古い建物が壊され新しい景色に変わる中、日進町の昭和の匂い、当時の景色をただ古い物にせず、その面影を壊さないよう、なじみがあり、それでいて新しい物にしようと挑んだ。ここに暮らす人たちにとって心地よいものであるよう、京急線沿いの壁画で花が描かれていたので花がたくさん咲いている道を増やそうと梅の花を描いた」と話す。別のアーティストが制作した壁画との親和性を込めた思いを話す。
日進町に住む人たちにとっては、記憶に新しい2015(平成27)年5月の大規模火災から5月17日で5年が経過した。この地区では施設の廃業や売却の増加と共に、さら地や真新しい一戸建て住宅、アパート、マンションとこれまでに無い景色も増えている。一方で面影を残しながら公民連携でのアート化が進むなど、さまざまな背景の中で変わりゆく地区となっている。
京急本線沿いの壁画制作と日進町に暮らす人たちの断片風景で構成された冊子はJR川崎駅構内観光案内所や京急川崎駅、京急八丁畷駅で手に取ることができる。