バスケットボール男子日本代表は、W杯2次予選の最終戦を2月24日にアウェイで戦いカタールに96-48と勝利し、通算8勝4敗で本大会出場を決めた。12人の登録メンバーには、川崎ブレイブサンダースから3選手が含まれており、それぞれ勝利に大きく貢献した。
ただ第1クォーターの日本は攻撃の「重さ」に苦しんだ。守備はカタールをよく封じ、散発的な3ポイント、ミドルは決められたものの10分間でわずか8失点。一方で「打てるところで打てない」という躊躇(ちゅうちょ)から攻撃のリズムを崩した。チームのフィールドゴール成功率は37.5%と低迷し、15得点に止まった。
流れを変えたのがSG(シューティング・ガード)の辻直人選手。彼はフリオ・ラマスヘッドコーチの期待通りにしっかり打ち切り、しかもそれを決めた。第2クォーターの辻は7分強の出場で3ポイントシュートを4本放ち、そのうち3本が成功。これに他のアウトサイド陣も続き、日本は42-25と大きくリードして前半を終える。
PG(ポイントガード)の篠山竜青選手にとっては自分から仕掛ける場面があまり無い展開で、この日は3得点に止まった。そもそもシュートも1試合で2本しか放っていない。そんな彼も第3クォーターの終了間際に「世界を驚かせる」ビッグプレーを見せた。篠山は左大外、ハーフライン付近でルーズボールを拾うと体勢を崩しながら左手で強引に投げる。これがスポっとリングに収まる3ポイントブザービーターとなった。FIBA(国際バスケットボール連盟)の「スーパーゴール集」やアメリカのスポーツ専門局の「今日のスーパープレー特集」でも取り上げられるこの試合最大の見せ場を作った。
今回の予選で、篠山選手はゲームコントロールや守備など得点以外で大きな貢献を見せた。彼は1次予選からの全12試合に出場し、代表のキャプテンとして、4連敗スタートの苦しい日々を乗り越える原動力となった。彼の発案による「日本一丸」のキャッチフレーズも、チームのモットーとして定着している。
逆に得点で比類なき働きを見せたのがC(センター)のニック・ファジーカス選手。昨年4月に日本国籍を取得して、6月末から代表に加わった。W杯予選の6試合にプレーし、チームはその間全勝。ファジーカス選手自身も1試合平均で27.2得点、12.5リバウンドという圧巻のスタッツを記録している。日本が本大会に出場する最大の原動力だったことは間違いない。
カタール戦に限ると、ファジーカスは得点以上にリバウンド面の貢献が大きかった。とはいえ終盤の連続得点で、終わってみると20得点19リバウンドでいずれもチーム最多を記録。快勝の中で、その持ち味を存分に示した。
篠山選手は4連敗からの復活劇をこう振り返る。「個人としてもチームとしても、自信が一番だと思う。ニック(ファジーカス)、八村(塁)の加入というきっかけがあって、勝つことを覚えて、自分たちもやれるとなった。Bリーグ組だけでイランとカタールに勝って出場権を得られたのは精神面。Bリーグの発足によるプロ意識も含めて、メンタル的な成長があったと思う」
しかし今回のW杯出場は日本バスケのスタートで、「ゴール」ではない。2020年には自国開催の東京オリンピックがあり、Bリーグもまだ3シーズン目の半ばだ。キャプテンはこう続ける。
「チャンスをもらったという感じですね。W杯出場で注目してもらえるし、一つの波は来ると思う。それをしっかりつかんで、一過性のブームでなく、日本のバスケやBリーグを文化にしていけるかどうかはこれから。これでバスケットに興味を持ってもらった人、代表を応援してくれた人に、もう一回Bリーグを応援してもらいたい。Bリーグの盛り上がりが代表の強化につながる好循環に持っていければ、ブームではなく文化にできる。そのチャンスのところに来たと思う」。
辻直人選手は、帰国時の記者会見で、代表チームを大事なイベントがあると集まる「いとこ」に例えて共感を誘ったが、彼らが日常を過ごす「家庭」は川崎だ。そこでの取り組みが、代表につながっていく。
代表の躍進がBリーグを盛り上げ、Bリーグの隆盛が代表を強くする。そのようなサイクルがついに回り始めた。川崎が東芝時代から磨き上げた人材、築き上げたカルチャーも、それを動かしている一つの要素。
このサイクルを一過性で終わらせない方法があるとするなら―。それはW杯やオリンピックで周囲を驚かせる結果を残すこと、そして選手たちがファンの後押しをエネルギーにして成長し続けるだろう。(現地取材・一部の写真=大島和人)